3月のサンガクシャ

神宮前に住んでいたころ、青山通りで木彫りの老雛を買いました。
次女の立雛と同じ真多呂の作です。
次の日曜日に大岡山に持っていくと、姑は喜んで床の間に飾りました。
姑は少女時代、父の任地ブラジルで一年あまり暮らしたのですが、
日曜ごとに官舎のとなりの教会のミサに集まる人々を見て、
自分も大きくなったらキリスト教徒になろうと決心したそうです。
50歳を過ぎて碑文谷のサレジオ教会で洗礼を受け、
マリアという名前をもらいました。
年一回、復活祭の前日に教会に百合の花束を持って行くだけの信者でした。
家を建てなおすあいだ入院した老人病院で癌が見つかり、
退院は無理と宣告されました。
家が完成したとき3泊4日の外出を許されて帰ってきましたが、
最初は別の病院だと思ったようです。
柘榴の老木が以前と同じところにあることに気づいて、ようやく納得しました。
それからは「家に帰りたい」と言わなくなり、二か月後に89歳で帰天しました。
今年の桃の節句は翁・媼だけを飾り、舅と姑の面影を偲んでいます。


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