歌仙「無限曠野」の巻

福島新吾 捌

平成八年二月 柴田南雄氏合唱曲「無限曠野」を遺して逝く

春浅き「無限曠野」に旅立ちぬ福島 新吾
 ひそと見送る山茱萸の花野坂 民子
小止みなく鶯の歌転ばせて内田 たづ
 薄茶点てんと釜の煮え待ち橋川 純子
名月の庭に誘われ石を踏む井口 昌亮
 風そよぐまま揺るる蓑虫
赤鳥居豊川稲荷秋祭
 法被姿の若き娘ら
目と目にて決まる今宵のランデブー
 急ぎかけこむサラ金の店
公園にいじめ見ている子のありて
 西の山へと烏群れ飛ぶ
鮎躍る簗白々と月の影
 手酌の酒に軒の風鈴
人減らし他人事なりと捨てられず
 ポーズ気取ったマネキンの顔
夢斯くや千鳥が淵の花万朶
 新入生の鞄かたかた
ナオ
草餅をつきなみと云い配り来る
 話はいつか米の自由化
そろばんも事務所の隅に忘れられ
 あととり息子遠方に住む明石 潤子
スキー場怪我の看護で恋芽生え
 かんじきで来るお仲人さん
犬小屋で薄目開いて確認し
 買いし油絵上下分らず
パリに来て一番先にのみの市福島 時子
 シャンソンに酔う神父の黒衣
光琳の文箱に浮かぶ金の月
 萩のかたえに虫のささやき
ナウ
鰯雲目路もはるかに海のはて
 分教場の八角時計
荷の重きバイク尻ふり走り行く
 母の伝えしすりこぎと鉢
雨上り色あざやかに花吹雪
 チェロの調べののどかなる午後
平成八年 二月二十三日首 同四月六日尾 於 雀鵠亭
近松 寿子 入選
磯  直道 特選
國島 十雨 入選

柴門連句会 柴田南雄が遺したもの サンガクシャ